武道ライター山里栄樹のブログ

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武道武術での第三の眼、イメージでの三人称視点;後編

 さて、前回では神秘行での“第三の眼”には、学習と体験をもとに構成されたイメージが大きく関与していることに言及しました。後編では、イメージの視点についてお話していきます。

【コンピュータゲームでの一人称視点と三人称視点】

 最近のコンピュータゲームは、リアリティーを追求した仮想空間でプレイが行われております。展開するストリーの中でプレイヤーが登場人物のキャラクターになりきってプレイするスタイルが主流のようです。オンラインで複数の参加者が各自に割り当てられたプレイヤーキャラクターを操作して、お互い協力しあって架空の試練を乗り越え目的を達成するロールプレイングゲームに人気があります。小生、コンピュータゲームはあまり好きになれないアナログ人間なのでありますが、プレイヤーの視点をあらかじめ設定できるという画期的なシステムに注目しました。

 まずは、一人称視点(ファースト・パーソン・ビュー)というのがあります。普段の現実世界と同じ自分の目線で臨場感のあるプレイをゲーム空間で楽しめるものです。リアリティーがあり過ぎて、自分自身がゲームの世界に入り込んだ様な錯覚に陥りやすいのですな。最近では、VRゴーグルを使って仮想現実空間を徘徊して臨場感だけを貪るというアトラクションもあるようです。

 そして、三人称視点(サード・パーソン・ビュー)では、画面の中で行動するキャラクターそのものを操作してプレイします。キャラクターが自分の分身のような存在なので感情移入が起こりやすいと言われています。画面での視界が広くなり、ゲーム空間での状況把握が容易で、一人称視点よりも操作性が高くなります。プレイヤーが親身になってキャラクターを導いていくといった感じですね。

 ちなみに、一人称視点や三人称視点というのは文筆の世界でも活用されておりまして、日記やレポートなどのドキメンタリーは一人称視点で、小説や戯曲などのフィクションは三人称視点で執筆するのが常道となっております。 

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TPS=サード・パーソン・シューティングゲーム 臨場感のある一人称視点よりも三人称視点のほうが操作性が高い

【肉眼の一人称視点からイメージで見る三人称視点へ】

 武道武術の練達者のように、特定の技能に精通すると知らず知らずのうちに肉眼の一人称視点からイメージで見る三人称視点へ変換していることがあります。これは視点を広く保って物事を全体的に捉え、先々の状況を想定しながら余裕をもって行動するという習性が身についていくものです。途中、予想外のことが起きても冷静に対応策を講じて適切に処理していくことが可能となります。初心者は一人称視点で行動することが多く、目先のことや部分的なことに気を取られて突発的な事態に対応するのが難しいのでありますな。

 イメージで見る第三者視点とは、実体として行動している自分を後方上空からもう一人の自分が監視して遠隔操作するという自分自身を継続的に客観視することなのです。まあ、自分自身を上から目線で見ているとも言えますな。予想外の突発事態が発生しても、それを目の当たりにしている実体の自分よりも冷静に判断ができる立場のもう一人の自分を意識の中に存在させることなのです。

 諺の岡目八目(おあかめはちもく)、囲碁をわきから見ていると実際に打っている人よりも八目も先まで手を見越すと言われております。当事者よりも第三者の立場でいるほうが情勢や損得などを正しく判断できるのでありますね。

【イメージでの第三者視点(三人称視点)を開眼させるには】

 イメージでの第三者視点を開眼させるには、定められた複数の動作を手順通りに繰り返すというトレーニングが効果的です。武道武術では剣術の組太刀などの形稽古が最も適したトレーニングになります。まずは、見取り稽古で熟練者が行う形の手順を記憶に留め、実際に動作を繰り返してトレースを重ねます。指導者に動作の手直しをしてもらい、修正を重ねていくと連続した動作のイメージが出来上がります。そうするとイメージの映像の中に、動作を行っている自分の後ろ姿が再生されています。

 剣術の組太刀では、上位者で攻撃側の打太刀と、その攻撃に対応して技を修練する仕太刀によって形稽古が行われます。仕太刀に熟達すると、立場を入れ替えて打太刀としての修練も行います。これによって打太刀としての自分を三人称視点で見ることのほかに、仕太刀である相手側の三人称視点に成り代わることも可能になります。組太刀に精通すると、多次元的な三人称視点がイメージのなかで縦横に展開します。イメージの中で自分の後ろ姿が見え、さらに相手の頭越しに自分の正面が見えてくるのです。

 ここで重要なことは、形稽古では部分的なことに固執せず、肉眼で相手を見るときは相手の全身をシルエットの塊としてボヤっと眺めるだけです。木刀や刃挽き刀などの切先を注視することなく、相手を見透かして背景の景色が見えてくるような感じです。これは遠くの山を望むような“遠山の目付”と呼ばれるノウハウです。つまり、肉眼での一人称視点のウエイトを極力下げて、その分イメージで見る三人称視点のウエイトを上げていくということなのです。

 また、イメージでの第三者視点には、意識(顕在意識と潜在意識)や呼吸という要素とも深く関わっております。武道武術のみならず実社会において、自分自身を見つめなおすことにも繋がっています。

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イメージで見る三人称視点(第三者視点)の開眼には剣術の組太刀=形稽古が最良のトレーニング     念流剣術の組太刀(明治神宮西芝地にて)

 

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